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私達の思考、感情、行動は心の内外の出来事、状況に反応しつつ、相互に影響し合っています。そして、思考、感情、行動が状況に即して調和的に働いている時、私達の心は安定していると言えます。そのような行動や思考はたいていは意識されずに自動的に発動しています。
その自動調整機能の主役は、これまで生活の中で経験、学習、獲得、習慣化されてきた「思考」や「行動」で、それらはほとんど意識されることなく働いています。特にこのような習慣化されてきた「思考」のことを認知療法では「自動思考」と言います。
このような思考は算数の問題を考えるときのような意識的、反省的な思考ではありません。半ば無自覚で半ば意識的であり、常に働きつつあり、そして、いつも既に働いているような思考です。私達は様々な出来事に遭遇する度に、あるときはポジティブな、またあるときはネガティブな「自動思考」が引き起こされ、それによって気分づけられ、行動を支配されたりしています。
「自動思考」がポジティブなものだけでなく、ネガティブなものもあるのは、危険を回避するための自己保存本能に根ざしている面もあり、決して病的なものとは言えないでしょう。
何かいやな出来事が起きた時、感情が反応して不安や憂うつになり、それに伴ってネガティブな思考、認知が引き起こされ、それが感情に悪影響を与え、さらに不安や憂うつが増してゆくという悪循環が形成されることを私たちはよく経験します。 この悪循環が高度になり、抜け出せなくなると、不安状態、抑うつ状態やうつ病へ発展すると考えられます。
このような悪循環が形成されるのは、出来事をネガティブに意味づけしやすい自動思考=認知の偏りが過剰に働いてしまうためと考えられています。 そのような認知の偏りには、いくつかの定型的パターンがあります。 それは思考の癖とも言えるもので、誰でも多かれ少なかれ持っているものです。人によってはそのような偏りに陥りやすく、前述の悪循環から抜け出せなくなってしまう場合があるわけです。
元々持っている性格や気質からこのような悪循環が生まれやすい方がいます。 代表的なのは、まじめで几帳面、律儀、他人にことさら気を使い、規律や秩序を重んじる、そういった方々です。 従来、メランコリー親和型性格とか執着気質などといわれる性格類型です。このような方々は状況に対して調和的な活動が維持されているときは大きな力を発揮されるのですが、いったん何らかの不適応的な状況が招来されると、几帳面なこだわりの強さ、執着性からこのような悪循環に陥り、抜け出しにくくなってしまうと考えられます。
このような悪循環の中では、思考や感情が絡み合い、自分を見失い、現実をありのままに受けとめることができなくなってゆきます。
そこで認知療法の技法や目的は、そのような状態から、事実と思考と感情とを明確に分離、対象化して、現実の事実とそれに対する自分の考え・思考、そして感情を冷静に受けとめなおそうとします。 特に認知の偏りに焦点を当て操作することで、現実に対してより柔軟な考え方をとることができることを目指します。このようにして現実をありのままに受けとめられるようになると、感情も安定化してゆくのです。
このことを促す代表的な技法として「7つのコラム」で有名な「認知再構成法」があります。さらに、心の奥の方にあってネガティブな自動思考を引き起こしやすい心の法則=スキーマも修正をはかろうとします。 このような認知行動療法の実践は、不安障害、うつ状態、うつ病に対して明らかな治療効果を上げてきました。
さて、ここで認知行動療法の歴史的展開に目を転じますと、その端緒はパブロフの条件反射学説、学習理論に基づいた行動療法に始まります。 これを第一世代とすると、上述のように認知に焦点をあて認知も含めて行動を操作しようとするのが第二世代の認知行動療法といわれます。
そして、昨今この第二世代を超えてゆこうとする手法や考え方が台頭してきており、第三世代の認知行動療法といわれるようになりました。 その代表的な手法の一つとしてマインドフルネス認知療法があります。
その代表的な技法はマインドフルネス瞑想です。 マインドフルネス瞑想は、原始仏教で実践されていた瞑想で2500年以上の歴史があるといわれています。現在でもミャンマーなどの国々で実践されています。しかし、日本に伝わった仏教が大乗仏教だったため、その技法については最近まであまり知られていませんでした。
実践はいたってシンプルです。宗教色はありません。 立つ瞑想、歩く瞑想、座る瞑想などのバリエーションがあります。 例えば座る瞑想では、座位になって呼吸に伴う腹部の動き(身体感覚)に注意を集中させ、膨らんだり縮んだりする腹部の動きをしっかり実感しながら、「膨らんでいる」、「縮んでいる」などと心の中で言葉で確認してゆきます。座り方等に決まった形はありません。 それを飽きずに続けます。 座る瞑想の中心対象は腹部の動きですが、立つ瞑想では足底の感覚、歩く瞑想では歩行に伴う足の感覚です。
しかし、人間の心というものは常に移ろいやすいもので、中心対象に意識を集中しようとしてもすぐに何かあらぬことを考えだしてしまいます。 例えば今日あった嫌なこととか、気になっていることとか、忘れていた大事なことや、脈絡もなく過去の思い出などが浮かんできたりします。あるいは、体の一部がかゆくなったり、痛くなったり、遠くの方からサイレンの音が聞こえてきたりして集中が続かなくなってしまいます。
そのようなときに、それらの思考や追想や身体感覚に対し、「雑念」、「思っている」、「イメージ」などと心の中で言葉で確認し気づきを入れていきます。このように心の中の出来事を言葉で確認し気づきを入れることをラベリングするとも言います。 あるいは、「かゆみ」、「痛み」、「音」などとラベリングします。そして意識を中心対象に戻します。 たいていはそのような気づきを入れていくと思考や追想や不快な身体感覚は消えてゆきます。時には頑固に消えないことや、うまく気づきを入れられないこともありますが。
このようにして中心対象に注意を向けつつ、心の内外の出来事についても実況中継し続けます。 マインドフルネスというのは、意識を常に中心対象(身体感覚)に集中させようとすることにより、何かにとらわれ移ろいやすい心を、思考へのとらわれから解放し、事実を、今の瞬間をあるがままに受容する強い心を作ることを目指す心のトレーニング法なのです。
第二世代の認知行動療法では思考を対象化し、操作しようとしました。 マインドフルネス認知療法でも思考を対象化はするのですが、あえて操作しようとはしません。思考は思考に過ぎず決して事実ではない、単なる心の中の出来事なのであるとありのままに受けとめようとします。そして、そのことを通じてその都度その都度の事実、今の瞬間をあるがままに受けとめられるようになることをめざしてゆきます。
このようにして上述した悪循環の基になりやすい心の執着性を解放しようとします。
医学的治療への導入は、1980年代にアメリカのJ.カバットジンが行い(マインドフルネスストレス低減法)、その後シーガルらにより、うつ病に対するマインドフルネス認知療法が開発されています。マインドフルネスストレス低減法は、慢性疼痛や高血圧、心疾患等慢性的な心身医学的な疾患に対して威力を発揮してきました。
その治療技法をうつ病の認知療法に取り入れたものがマインドフルネス認知療法です。 シーガルらによるマインドフルネス認知療法は、ランダム化試験の結果、3回以上再発を繰り返したうつ病患者に対して再発予防効果が認められたというエビデンスも得られています。
マインドフルネスもしくはマインドフルネス認知療法に関して、興味のある方は以下の書籍をご参照ください。
J.カバットジン著(春木豊訳):マインドフルネスストレス低減法 北大路書房
Z.V.シーガル他著(越川房子監訳):マインドフルネス認知療法 うつを予防する新しいアプローチ 北大路書房
越川房子監修:ココロが軽くなるエクササイズ 東京書籍
特に、「ココロが軽くなるエクササイズ」には「マインドフルネス瞑想」の章があり、具体的な実践法が記載されていますので参考にしてください。
また、マインドフルネス瞑想実践用の便利グッズも少し紹介したいと思います。
iPhoneをお持ちの方なら、App Storeに行って「mindfulness」で検索してみてください。
瞑想用のアプリがいくつか出てきます。
特に、The Mindfluness Appは、3分、5分、15、30分のタイマー設定ができるGuided meditation(インストラクターの音声ガイド付き瞑想)と、Silent meditation with bells(音声ガイドなし)がとても便利です。
瞑想の開始と途中、最後にさわやかな鈴(りん)が鳴って秀逸です。
Personalized meditationを使うと最長60分のタイマー設定ができます。
また、一週間、一月、一年間の通算瞑想回数、瞑想時間が算出されるStatistics機能もついています。
MBSR(マインドフルネスストレス低減法)の専門インストラクターがアプリの監修・音声ガイドを行っています。
私たちのクリニックでは、早稲田大学文学部文学学術院教授 越川房子先生のご指導、ご協力の下にマインドフルネスを取り入れ、不安や抑うつの一次予防や治療に役立てていきたいと考えています。 また、糖尿病をはじめとする生活習慣病に対してもマインドフルネスを応用した病状コントロール、ストレスコントロールも行ってゆく計画です。
ご希望により越川先生によるマインドフルネス認知療法を受けることができます(ただし、当院通院中の方に限ります。自費によるカウンセリングです。
病状によって向き不向きがありますので診察を通じて適否を決定します)。
マインドフルネスが注目されるようになり、私たちも実践するようになりました。忙しくてなかなかできないことも多いのですが、時間を見つけて朝15分とか30分くらいのチャレンジを続けています。非常にシンプルな方法なのですが、なかなか思ったようにはできないもどかしさをいつも感じながらやっています。
さてその効果としては・・・・
ストレスが軽くなったとか、リラックスしやすくなるとか、そんな目立ったことはありません。ストレスを軽くするとかリラックスするということは本来の目的ではないのです。
ただ、うちではよくあることなのですが、副院長と意見が食い違ってもめたりします。
そんな時、「怒り」と気づきを入れたりして、前より頭にきたり、反応したりすることが少なくなった気がします。たいした変化とは言えないかもしれませんが、実はかなり大きな変化かもしれませんね(笑)
ただ、今この瞬間、事実ありのままを受けとめてゆくということがどんなに難しいことなのか痛感しています。 いつも何かの心配や不安、雑念に振り回されて自分を見失っている、それが現代を生きる私たちの当たり前の姿になってしまいまっています。この実践を続けてゆくと、自分たちの心にどのような変化が訪れてくるのか気長に見守ってゆこうと思っています。
さて、このコラムをお読みの皆様も、ちょっとチャレンジしてみませんか。
不安やストレスで気が重くなっている方、ご来院、ご相談をお待ちしています。